「綿谷さんの友だち」大島千春さん著
主人公の綿谷さんは言葉の裏の意味や、空気を読ま(め)ない高校3年生
高2まではきっと無視やいじめを受けてきた彼女だが、山岸さんという同級生が隣の席になったことで世界が変わっていく
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山岸さんは、綿谷さんが自分と違う価値観なり感じ方をしていることを、(多くの同級生は綿谷さんを異物として扱うなか)当然のこととして受けとる
そして大事なのは、山岸さんが「綿谷さんにとって謎でしかない、周りの人と綿谷さんとの考え方や感じ方の違い」を説明してくれることで、綿谷さんが「周りの人と関わる術を少しずつ身につけていける」ようになったこと
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綿谷さんにとって山岸さんという、おそらく学校で初めての安全地帯ができ、そして綿谷さんが山岸さんと話すのを見ることで、クラスメイトも綿谷さんのことを理解するチャンスが生まれ、少しずつ綿谷さんと関わるクラスメイトができてくる
同時に、クラスメイトたちの世界も変化していく
綿谷さんより自由に振舞っているように見えたクラスメイトたちも、空気を読んだり、言葉の裏の意味を考えてばかりで動きが取れなくなり、別の生きにくさを抱えていた
綿谷さんはクラスメイトたちがそれぞれに持っている心の壁に、ストレートにぶつかっていく
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多くの場合その行為は、不躾だったりタイミングを得なかったりで、綿谷さんが嫌われるだけに終わることのほうが多いんだろうけど、そこは漫画で、クラスメイトたちは実直な綿谷さんに触れることで、自分の壁を意識させられて、その壁に囲まれた世界から出るほうを選ぶ
この漫画を俯瞰してみるなら逆説的だけども、周りと違うタイプの綿谷さんがいることで、クラスメイトひとりひとりが生きやすくなっていく
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最後に、綿谷さんのこの話は、日本ならではの話かもしれない
彼女は一般的に言うなら発達障害として呼ばれるかもしれないのだけど、この言葉は注意が必要で、その社会において生きていくのが難しければ、そう呼ばれるということ
だから個人の違いをもっと当然として生きる欧米社会では、綿谷さんのあり方は単なる個性として扱われるかだけもしれない
そして日本の綿谷さんに話に戻しても、山岸さんのような最初の一人がいて、クラスメイトと楽しくやっていけているようになったら、もう発達障害とは呼ばれなくなるということ
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大好きな漫画になった