ココロミにきみ

本と体とプログラミング

本 吹上奇譚 第二話 どんぶり

「吹上奇譚 第二話 どんぶり」吉本ばななさん著

この小説は生き生きしている

今までの小説も好きだったけど、言うなればそれは、あの世とこの世みたいな二つの世界が別れていたがゆえに、ある種の秩序を保った静謐な感じを湛えていた

この本では作者がまた一つ違う扉を開けて、普段の世界と普段ではない世界とが風通しよく繋がった感じがする

今を生きることへの強い肯定が、今までと違う彩りと自由をこの本に与えているのかもしれない

吹上奇譚 第二話 どんぶり

吹上奇譚 第二話 どんぶり

 

多くの小説や物語は、たいてい一つだけ大きなウソをついて、あとは現実と同じように書くことでリアリティを持たせるのが普通だと思うんだけど、この本は”ウソ”をたくさんついているのに、とても自然に話が展開していく

最初からそこに全てがあったかのように、登場人物と環境が有機的につながっていく

感想を書いてて、そもそも登場人物と環境って分ける発想自体が一つの見方にすぎないことに気づいた

逆に、環境という言葉で切り分けることが、生き生きを失わせる方法なのかもしれない

* * *

主人公ミミは、目の前で起きていることをゆっくり肯定していく

自分の思う過去からくる記憶は大切にするけれど、今、現にそこにあるモノコト自体の大事さほどは、たいしたことがない

その今この瞬間に存在するものを祝福することが、周りの存在を癒していく

 

ばななさんの森のあり方は、こんな感じなのかもしれない