ココロミにきみ

本と体とプログラミング

本 パパは脳研究者

「パパは脳研究者」池谷裕二さん著

この本の一番素敵なところは、池谷さんが「楽しんで・喜んで」子育てをしている所。我が子があれやこれや出来るようになる、親としての喜びとともに、人間が発達していく様を身近で観察できる、科学者としての喜びに溢れている。

例えば、3歳児は白雪姫の面白さが分からないが、4歳児は他者の視点を想像できるようになるので、毒リンゴの場面をドキドキしながら読めるようになるとか。

パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学

パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学

 

誰にとっても役に立つだろう視点は「褒め方」のことだった。

子どもの ” 努力 ” を褒めないように(著者が努力)している

たとえば、子どもが ” 絵を描きたいと思って ” 描いた時に、「よくがんばったね」と褒める。すると子どもは「自分の絵を描きた意欲に従って絵を描いた」のに、「褒められて嬉しいから絵を描いた」に自分の認知を変えてしまう。その結果、絵を描きたいという意欲がなくなり、絵を描かなくなってしまう。

大人になろうがどんな年代でも共通する人間の意欲の仕組みの話だと思う。

* * *

子どもを育てる人を勇気付ける、暖かい本だと思う。

本 美内すずえ対談集 見えない力

本 「美内すずえ対談集 見えない力」

ガラスの仮面の作者、美内すずえさんと、能楽師、武術家、物理学者の対談

人間の営みの限界は、つねに現代の科学の外側にあることを知った。美内さん自身が連載の中でその存在を実感したからこそ、人間の定義を広げる御三方を対談相手に選ばれたのだろう。

例えば武術家の甲野善紀さんは、首が回らない人の首筋に真剣をピタっと当てることで治してしまったり。今の科学では説明がつかないことに自分がどう向き合うか。

* * *

物理学者の大栗さんは、最小の物質は、現在の理論では ” 一次元の弦のような存在 ” を想定すると言う。それには ” 大きさがない ” という仮定をされていると。

普段無条件に信頼している ” 科学 ” が存在の根本すら明らかに出来ていないと。

* * *

「見えない力」というと怪しい話のような気がしてたけど、よーくよーく考えると日常生活ですら、見えない力で回っている部分のほうが多いんじゃないかって。

ガラスの仮面の人気を支える裏のすごみが分かる本でもある。

 

本 サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい

「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」三戸政和さん著

中小企業の事業継承(個人M&A)と業務改善を通じて、「役員報酬」と会社という「箱」の売買で老後の資金を稼ごうという指南本。おもに大企業のサラリーマンで、マネージメント業務の経験者を想定している。

* * *

いま日本は大廃業時代に突入しており、中小企業の多くは後継者問題に悩んでいると。多くの中小企業は業務のアップデートが行われておらず、財務諸表が読めない社長も多く、非効率な仕事のやり方が放置されていることがある。

そのため、大企業でやっている”普通のこと”を導入するだけで、業務が改善されることが多く、そこにチャンスがあるというのが著者が個人M&Aをおすすめする理由。

* * * 

やはりこの本の面白さは、「自分には大した能力なんてないし」と思っている普通のサラリーマンに実はその能力の使い先がたくさんあるんだよ!と教えてくれたことだろう。

そして事業継承(個人M&A)なんて、まさか自分が??という人に、一つ一つ不安を解消するための事実を列挙している。実際に継承するのはそりゃ大変だと思うけど、多くのサラリーマンに、人生の選択肢を増やしたのはすごいことだなと思う。

* * *

個人M&Aによる個人的な老後のお金の問題の解消というミニマムな話が、その中小企業が生かされることでその従業員とその家族の食い扶持が保たれる。そうやって後継者が見つかった企業が全国で増えれば、何十万人という雇用が保たれることになる。

日本の1960年代が創業時代だったとすれば、2020年代は事業継承時代と呼ばれるくらいになるのかも。

本 異教の隣人

 「異教の隣人」釈撤宗さん他

日本で活動している数多の宗教の現場を取材したユニークな連載本。

* * *

前文の釈撤宗先生による「宗教の場の存在意義」の話がまず面白い。

宗教の場は、たんにそこで宗教の儀式が行われるのではなく、ご飯を一緒に作って食べること、一緒の時間を過ごすこと、文化のアーカイブ装置、価値観のリセットの場というように、複数の機能を同時に果たしているという解説にすごく納得した。

だから(ストレスの多い)外国に暮らす人たちにとって、自分たちだけの定常的な宗教の場があることは、ものすごく大きな意味を持つことになると。

逆に言うと、日本でそういう宗教の場を作れなかった異教の人たちは、「生きる核」が作れず、人知れず消えて行ってしまうのかもしれない。

* * *

異教の隣人

異教の隣人

 

個人的な話だけれども座禅に行くようになって、宗教の場がもつ文化アーカイブの恩恵を受け取ること、価値観や人間関係のリセットされる場の効能、利害関係のない人とご飯を食べる楽しさなど、行く前に想像しなかった贈り物を受け取っている。

* * *

逆に思うのは、異教の人というのは自分と価値観が違う人全てのことであって「日本で暮らす日本人」にも同じことが言えるのかもしれない。

つまり、同僚でも家族でもない人と毎週集まって、「一緒にご飯を食べる機会を持たないこと」が、どれだけ自分にダメージを与えてるのかと。

* * *

本書のメインである異教の人たちの取材は読んでのお楽しみ。

 

本 機械学習と深層学習 Pythonによるシミュレーション

 「機械学習と深層学習 Pythonによるシミュレーション」

機械学習のライブラリを使わずに、シンプルなモデルを実際に作って学ぶ本。機械学習系を根本的に理解するのに最適。この本で概念の基本形を身につけて、実地で理論を自分で応用するのが黄金パターン。実践の時に最初は時間がかかるだろうけど、応用力が高くなって将来の発想を支える力になると思う。

いままで何冊か機械学習の本を読んできたけど、著者の説明力の高さと、構造のシンプルさでとても分かりやすい。プログラミングに慣れてない人には、プログラミングの構造を作る手順の練習と、関数型プログラミングの練習にもなる。

機械学習と深層学習 Pythonによるシミュレーション

機械学習と深層学習 Pythonによるシミュレーション

 

 内容はテーマごとの章立てになっていて、章ごとのテーマの実装構造は自分の頭で考えて理解する必要はある。

例えば、迷路の「強化学習」では、それぞれの分岐点で正しい経路の選択に「重み」をどう与えるか?が要になる。それを実装した式の働きの意味を、解き明かす努力ぐらいは求められる。高3の数学の応用問題で回答をみて理解するレベル。 

* * *

無駄な説明が少ないため、どんどん読み進めて実際にプログラムを打ってみて、変数をいじっていればたいてい理解できる。また同時にわざと?説明していない部分が ” 宿題 ” にもなる。

個人的に気になったのは「遺伝的アルゴリズムで、一旦適応度が最大になったあと少し適応度が下がったところに収束する」というシミューレート結果。その理由の説明は本書には一切ないから、自分で考えるか、流すかは任せられている。

変数をいじった結果、要素数が少ないなかでの遺伝的アルゴリズムは上記のようなプロセスをたどることが分かった。要素が増えるとlog関数のような純増グラフになる。これは実際の世界でも同じなんだろうか?

* * *

この本は機械学習のスタンダード教科書と呼んでもいいんじゃないかと思う。ちょっと他に類を見ないクオリティなので、多くのプログラマーにオススメ。

 

<<追記>>

実際に使ってる人へ

p.97 123行から始まる selecting()関数内の

(134行〜)

for c in range(POOLSIZE * 2):

    roulette[c] = evalfit(ngpool[c])

   # 適応度の合計値を計算

   totalfitness += roulette[c]

は131行目からの「for i in range(POOLSIZE ): 」のループの外(前)に出してしまっていいと思うんだけど、どうなんだろう。for ループのi に何も影響受けないし。

実使用時に評価関数が複雑になってくると、for i ループで毎回同じ値を出してくるこのfor c ループの処理の遅さがボトルネックの一つになってくるし・・・。

本 ある男

「ある男」平野啓一郎さん著

いっとき同じ時を過ごした人の、その未来が余韻の中に消えて行く様が心地よかった。丸みを帯びた恋心がやんわりと伝わり、青年の激しい熱情ではなく、中年の抱えたものが多い人生にほんのりと寄り添う感じ。

そうやって色々なモノを抱えてしまった人生をリセットする、という妄想は常に人生の側にあると思う。以前、この本に書かれていたことと同じことを考えいた。

「ある日起きたら、” 過去の記憶 ” というのを与えられて、自分が自分の体に配役されていた、という意識の在り方。」配役だから、嫌な過去があっても引きずらない。シンプルにああ、この役にはこんな過去があったんだと受け取るだけ。

ある男

ある男

 

そういう風に ” 自分 ” を受け取ることは、初めて聞いたら可笑しいかもしれないけど、別に大したことではないと個人的には思っている。”自分の定義”なんて、時代や地域でどんどん変わって行くだろうと。

平野さんは、以前「分人」という概念で人を空間的に分解した。今度は人を時間的に分解したのかもしれない。 

この本で自分の定義を揺さぶられて、自由になる人と不安になる人がいる。

本 月曜断食

 「月曜断食」関口賢さん著(今週のお題「読書の秋」)

タイトルがいい。以前、週末断食がはやったけど、週末を断食に使ってしまうと友達とご飯にいけないという問題があった。

もっとも、この「月曜断食」も日曜の夜から軽めにしておけというのはある。要は空腹時間を長くもつことが大事なんだそうだ。特に寝てる時に空腹だと、消化のためではなく、体を修復するのに体内の力が使われるのだと。

だから断食をやると体重が減るだけでなく、肌が綺麗になったり、アトピーが軽くなったり、体自体が回復するというのがミソらしい。

月曜断食 「究極の健康法」でみるみる痩せる!

月曜断食 「究極の健康法」でみるみる痩せる!

 

 そしてこの著者の面白いのは、断食がうまくいかない人は、時間を守ることを大事にしたり、部屋の掃除をしろという。

そのアドバイスの意味はなんとなくわかる。食べ過ぎで太っていて断食をしたいような人は、自分の体の感覚に鈍感になっているのだろう。もしくは鈍感にせざるを得ない生活サイクルを送っているのだろう。

鈍感になっているから、胃の限界(満腹感の気持ち悪さ)に無頓着になり、掃除がされてない(体がいやがっている)部屋でも平気でいられる。

本来もってる感覚の鋭さを取り戻す手段として、断食があり、掃除があり、時間を守るという行為を一つずつ積み上げていこうということなのだろう。

とりあえず毎食を、胃のサイズである ” 握りこぶし2つ分の量 ” にするといい。