「空をゆく巨人」 川内有緒さん著
人が人とつながることで、新しいものごとがどんどん生み出されていく、大きな物語を読んだ気がする。
この本には二人の巨人が出てくる。アーテイストの蔡國強さんと協力者の志賀さん。どちらも個人としても面白いのだけど、二人が組み合わさることの面白さがやはり一番すごいのかもしれない。
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蔡さんはアートという枠組みで、0から1を作り出す視点や方向性を打ち出す。それを志賀さんをはじめとする協力者たちが、1から10や100にしていく。協力と言っても、それ自体が創造的だったり初めてのことばかりで、それぞれ対等な別々の立場から関わってプロジェクトが花開き大きなものになっていく。
友情ももちろんあるだろうけど、それよりも世界に関われる面白そうな手段がそこにあって、それぞれの役割を果たして関われること自体が一番嬉しいんじゃないかと思う。学校の文化祭を作る楽しさを、世界を変える手段としてスケールアップさせたものがイメージに近い。
志賀さんは、南極探検にいった大場さんの冒険の生死の鍵を握る協力者でもあった。南極で死にかけた大場さんが
「あのとき、人間に必要なのは希望と夢だと気がつきました」(文中より)
という言葉を残している。この言葉はのちに東日本大震災後の志賀さんの行動の指針になっていく。それがいわき万本桜プロジェクトになっていく。
昔からそうだったんだろうけど、もう志賀さんは自分だけの人生を生きていない。自分の人生を超えた時間の歩みの中で、生み出されるモノにその身を任せている。人脈や行動力という意味で巨人だった人が、時間を超えた大きさでも巨人になっている。
稀に見る面白いノンフィクション。