「逆説の法則」西成活裕さん著
大事な視点がてんこ盛りの本。長期的な視野に立って損得を考えることの価値を、科学的・数学的側面から補強して語る。
例えば、「33人の被験者が16人しか入れないBarで相互に繰り返し楽しむ」という実験がある。そこに「2種類の考え方の集団」の満足度がどうなるか?というもの。
「自分が利益を得たら次は他人にチャンスを回す集団A」
「自分が得することだけを考えて行動する集団B」
がそれぞれ楽しんだところ、合計の満足度は
➡︎ 利他集団A:147ポイント
➡︎ 利己集団B:111ポイント
だったと。これは相手に利益を回す(自分が短期的に損をしているように感じられる)行動が、長期的に見れば自分も利益を余分に得ているという逆説的な結果になるということ。
上の例をもう抽象化していうと「部分最適が全体最適になるとは限らない」ということ。
これを今の社会に当てはめるなら「自由主義の限界の話」とも言える。個人が自由に利益を追求すること(=部分最適)は、社会全体の利益(=全体最適)にはならないケースがいくらでも存在するということ。
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他にも生産ラインやバケツリレーは全力の7割程度が一番効率が良いとか、直観に反する事実がたくさん出てきて、一つ一つの事象を追うこと自体も面白い。
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筆者を悩ますのは、長期的な視野に立ったときに初めて得られる逆説的なメリットを、現代の「短期の成果主義」風潮の中で、どうやって仕組みに取り込んでいくかということ。
個人的には「利他主義の集団」に関しては、「個々人のグループ」として存在していることを実感として知っている。利他主義の集団を形成するときに問題になるのはフリーライダーと呼ばれる「タダ乗り」をする人の存在で、そういう人を慎重に避けて作られた「利他主義の人のみからなる集団」というのは個人レベルではすでに存在している。
そうやって幾重にも「利他主義の集団」に属している人が増えて、どんどんメリット受けるという経験が積み重なっていけば、長期的な視野で損得を考える、という発想も広まっていくのかもしれない。
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最後に。上の実験では「情報がきちんと伝わる」というのが書かれていない条件としてあった。つまり、情報を一部の人が独占したり、正確な情報が伝わらない仕組みのなかでは「利他集団は機能しない」ということだろうと思う。
本当に中身の詰まった本。読んで欲しい。