ココロミにきみ

本と体とプログラミング

本 吹上奇譚

今週のお題「私の癒やし」

「吹上奇譚」吉本ばななさん著。

著者曰く「私がSF書くなんて世も末だ」と。でも実際は全然SFであることすら意識しなかった。ばななさんの小説はある時から、そーゆーのもありだよね」って思える人(思わないと生きていけない人)が対象だから、違和感ないんじゃないかな。

主人公ミミの、双子の妹のこだちがいなくなって、ミミが探しに行くというのが前半で、いささか村上春樹的な始まりだなと感じたけど展開はもちろん全然違った。

吹上奇譚 第一話 ミミとこだち

吹上奇譚 第一話 ミミとこだち

 

 個人的に人間関係で辛い時に読んだから「主人公のミミが心を開く」というプロセスが大事だった。ミミは心を開くことで他人の暖かさに気付けたり、誰かの小さなプレゼントに出会えるようになる。そして人に出会えるようになり、一つ一つがミミの力になり物語が動いていく。

心を開くって、実際どういうことよ?って毎回考えては忘れてまた探してたんだけど、「自分が変化することを自分に許すこと」だったっていうのを思い出した。個人的にこの小説と道端の花と、友達の愛情で再び心を開くことができて感謝している。

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あとがきで、著者がもう今はSFじゃないと読者の心に届かないという趣旨のことを言っていた。だからこそのSFという選択肢なんだろうけど。

現実に多くのことが起こりすぎて、中途半端な設定では現実とどっかでかぶって心の鎧が取れないから「いったん今からウソの世界に連れていきますからねー!」ってやったほうが、読者がウソを意識するぶんだけ小説に心を開きやすいんだろうな。

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吉本ばななさんの描く世界の人たちのような優しい人たちは現実にいる。もしかしたら、”一般的にいる” のではなくて、”関係性の中にしかいない” のかもしれない。少しずつ時間をかけて手間をかけて、愛情を惜しまず与え続けたら出会えるたぐいの人かもしれない。