ココロミにきみ

本と体とプログラミング

本 ある男

「ある男」平野啓一郎さん著

いっとき同じ時を過ごした人の、その未来が余韻の中に消えて行く様が心地よかった。丸みを帯びた恋心がやんわりと伝わり、青年の激しい熱情ではなく、中年の抱えたものが多い人生にほんのりと寄り添う感じ。

そうやって色々なモノを抱えてしまった人生をリセットする、という妄想は常に人生の側にあると思う。以前、この本に書かれていたことと同じことを考えいた。

「ある日起きたら、” 過去の記憶 ” というのを与えられて、自分が自分の体に配役されていた、という意識の在り方。」配役だから、嫌な過去があっても引きずらない。シンプルにああ、この役にはこんな過去があったんだと受け取るだけ。

ある男

ある男

 

そういう風に ” 自分 ” を受け取ることは、初めて聞いたら可笑しいかもしれないけど、別に大したことではないと個人的には思っている。”自分の定義”なんて、時代や地域でどんどん変わって行くだろうと。

平野さんは、以前「分人」という概念で人を空間的に分解した。今度は人を時間的に分解したのかもしれない。 

この本で自分の定義を揺さぶられて、自由になる人と不安になる人がいる。