ココロミにきみ

本と体とプログラミング

AI vs 教科書が読めない子どもたち

「AI vs 教科書が読めない子どもたち」新井紀子さん著

科学者の本気に感動した本。

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著者が行なった日本の中高生に25000人に行ったテストの結果から、高校2年生で、教科書の文章の言葉の対応関係が分からない生徒が2割いることがわかる。

たとえば「主語述語の関係」が読み取れないとか、「これ、あれ」などの指示語が何について言ってるかが、高2の2割は分かっていないと。

この段階ではまだ文章の「意味」に到達していない。 文章の「内容や意味」の理解になると、高校2年生で5割だけができる。

逆に言うと、半分の生徒は教科書の文章の「意味」が分からない。この状態で、問題を解くとか実際何をやってるんだろうか?

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「意味」が分からなくても対応できる仕事はAIに持っていかれる。つまり半分の生徒にはホワイトカラーの仕事はもう残っていない。今働いてる人たちにも。

AI vs. 教科書が読めない子どもたち
 

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今のAIは「論理・確率・統計」で成り立ち、「意味」がその仕組みに含まれないので、シンギュラリティは迎えない。当たり前だけど物事の「意味」が分かってない状態で出来ることは、それがどんなに早い速度であろうと「処理」のレベルを超えない。

だからスーパー頭脳的な意味でのAIの心配はとりあえず要らない。ロボットに社会が乗っ取られるとかもない。

でもリアルな現実として50%のホワイトカラーは職を失う。いま学校で学んでいる生徒たちの50%はホワイトカラーの仕事にありつけない。その数字が一致しているのはある意味当然で、大失業時代が来る。

運良く自分の仕事がAIに代替されなくても、社会全体が大不況になった時に、税金がどうなるか、治安がどうなるか、環境がどうなるかを考えれば、人ごとに出来る人はいない。

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著者は教育の分野で、教科書の「意味」まで到達できる生徒を増やすことに情熱を注いでいる。それがAI時代にホワイトカラーの仕事を持つための最低限になるから。

働いている人は自分たちでなんとかするしかない。自分たちを再教育するなり、新しい仕事を作り出していくしかない。全員がうまくいくとかは思えないけど、いっときの苦労はあれど、人間にしかできない仕事を探して考えて作り出していく、というのは同時に幸せなことでもあるかもしれない。

「意味」が分からずとも仕事になってしまう仕事は、それをやっている本人の何か大事なものを常に削り取っていってる気がするから。

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この本を読んで、AIのリアルと、学力のリアル、将来の仕事のリアルをそれぞれ肌身で感じた。そして、その3つがちゃんと繋がりを持って語られる様に、科学者が本気で伝えようと科学の手法を使うと、こんなに精緻で意味のある成果が出せるんだと。

ベストセラーになるのもうなづけるし、統計の結果から言ってもこの本を読める人も限られているだろうから、読める人はぜひ読んで、周りの人を助けるのが一番できる現実的なことだろうと思う。