ココロミにきみ

本と体とプログラミング

本 人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか

 「人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか」池上高志さん・石黒浩さん著

人工生命を作ろうとしている人のお茶話に立ち会うようで面白かった。いずれ無機物による生命体に移行するのが当たり前のように話している。人間の立場を超えて生命体学者のような存在というか。

その二人が機械人間オルタ(「altenative:もう一つの」から来てるんだろう)を共同で作って実験しながらの対談とコメントをまとめた本。

 
新作アンドロイド「機械人間オルタ」

AIは生命の理解に使う、という発想が面白かった。二人の考えでは、生命を理解するには現在の手持ちの道具だけでは無理で、相対論と量子論を結ぶスピノールのような新たな変数を持ち込まないと理解できないのではないかという。(スピノールは個人的によく分からない話なのだが、難しい問題に補助線(=新しい変数)を引くことで理解できることがある、という発想はわかる)

その変数を見出すのにAIを使うという話なんだろう。ただし、現在の科学は ” 意識 ” ベースであり、生命を理解するには無意識で行っていることまでをも含む必要があるとも言っている。AIの「教師なし学習」には無意識も当然含まれているんだろうけど、コントロールできるわけじゃないし、意識部分との分離もどうやるか分からんよな。

なんにせよ、現在の僕たちが普段使っている ” 理解 ” の手法を拡張するというのは面白いと思う。たとえば、無意識による ” 理解 ” というのも当然あって、さらに武道でいう ” 体による理解 ” というのもあり、ほかにも生物ごとの " 理解 " の仕方もあるだろうなと思う。そういう、違う次元の理解の仕方をまずは手に入れて、また、お互いを比較したり、融合させたりして探っていくのだろう。

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生命を理解するのに、何か新しい変数が必要なことがAIで分かるとして、その変数自体の理解は人間はできるようになるんだろうか?

人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか

人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか

 

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また、生命が物質の相互作用の何段階か上のレベルに生まれてくる作用(機能?)だと考えるなら、それは生命を構成する物質がなんであるかとは関係ないコトだと言える。

だから ” 何か ” を最下層のレイヤーにおけば(エネルギーでもいい)、その複雑さがいくらかのレベルになる上層には、ある種の生命が生まれてもおかしくはない、という生命観の拡張は新鮮だった。

目の前にあるもの(=生命)を理解するために、それを含むより大きなもの(人工生命+自然生命)を考えて、その一部として目の前のものが存在する、というアプローチはなるほどなと。

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そうやって考えていると、人間が持っている感覚以外にもいくつも感覚ってあったっていいと思えてくるし、理解とか考えるとか感じる以外の知的活動もありそうだし、そもそも名前もつけられない活動があるのかもしれない。

また、例えば生命と非生命という発想で分けているけど、第3の分け方もあるかもしれない。さらには、生命や非生命とは違った別の存在の仕方もあるかもしれない。

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そんな普段考えたこともなかった、発想の端っこを広げてくれただけでも、すごい本だった。