ココロミにきみ

本と体とプログラミング

本 遺言。

 「遺言。」養老孟司さん著

メンデルの法則の何がすごいのかと。優性・劣性遺伝を綺麗にまとめて(A・aで表現して)、誰でも分かるようにしたと。まぁ発見した人だからすごいんだろうと思ってたけど、養老さんはそこがポイントではないという。

19世紀に生物の形質を「記号化(情報化)」した最初の人ということなんだと。そこからは、生物学ではなくて「情報学」になったんだと。逆に考えるとそれまで誰も、生物の形質を記号化して考えたことがなかったんだ。全ては単なる”違い”として認識していたと。

そして一度 ” 情報 ” に置き換えられた身体は当然、別の " 情報 "(身体)で置き換えられるという発想に繋がるわけで。臓器移植の始まりはメンデルにあったと言っていいのかもしれない。

遺言。 (新潮新書)

遺言。 (新潮新書)

 

その " 情報 " を扱うためには、 ” 同じ ” を理解することが必要で、それは意識の働きになる。話の順番としては逆で、” 同じ ” を追及していくと都市文明ができ、一神教ができ、コンピューターが出来てくる。

”  同じ ”と双璧をなすのが感覚による ” 違い ” なんだけど、都市は感覚を感じることを極力制限していて、オフィスや家の中の環境を常に一定にしようとする。部屋の温度も床の平さも一定。

さらに人間が意味を見出さないもの、管理できないものはその場から排除される。屋内に虫が入ってくると大騒ぎするのは、虫が嫌いというよりは、意識の " 同じ " を壊されることに対する過剰反応なのかもしれない。

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この話は少子化にも繋がる。なぜ少子化になっているかに対して、子どもを育てる環境になっていない、年収が足りないなど以外に根本的な理由があると。

それは、子どもという ” 予測不可能ないきもの( = 自然) ” に対峙することを、都市の人間が苦手とするようになってしまったからだと養老さんは言う。すごく納得する。だから田舎や特に離島で出生率が高いのは、自然に接することを当然として、感覚による”違い”を普通に受け入れて生きるのに慣れているからだろう。

 ちょうどドラマで「隣の家は青くみえる」をやってて、人工授精の話が出てくるんだけど、治療の一つに田舎暮らしや、野生に戻るようなものがあってもいいんじゃないか?

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養老さんの考え方が大好きで、もっと理解したい、実践したいと思いつつ、それに染まれば染まるほど、会社の同僚と距離が離れ、 会社の環境自体に耐えられなくなる問題。その ” 違い ” を ” 同じ ” が好きな人たちは理解してくれない。